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俺の彼女は猫系女子

【序章:桜の花と苺の香り◆岡部弘樹】


猫系女子と言う言葉をご存じだろうか。
 
いわゆる動物系……人の性格を動物で例えると、犬系や猫系、はたまたペンギン系やうさぎ系など、いろんな動物系のタイプに分かれるそうだ。
 
確かに動物にイメージすればその相手の性格がよく分かる。
 
俺、岡部弘樹(おかべ ひろき)には見た目が可愛い彼女がいる。
 
俺の彼女を動物系に例えると猫系女子だろう。
 
まるで猫のように気分屋で飽きっぽくて懐かない。
 
でも、どこか放っておけない雰囲気があって。
 
気がつけば俺の傍にいて甘えてくるような可愛い彼女。
 
これは俺と猫系女子の彼女との恋のお話――。
 
 
 
俺と彼女が初めて出会ったのは、高校2年の春。
 
新学期に入り、放課後の校内には運動系の元気のいい声が響く。
 
「……眠くなりそうな、いい天気だな。昼寝してぇ」
 
春の陽気が心地よく、綺麗な桜の花が散っていく桜並木。
 
こんな日に昼寝でもすれば最高だと思いながら中庭を歩いていた。
 
「実際に寝たら置いて行くぞ、岡部」
 
一緒に帰っていた友人の松坂が後ろから俺に呆れ気味にそう呟いた。
 
「それは困る。せめて起こしてくれ」
 
「面倒だからパス。ていうか、寝てる女の子ならともかく野郎は知らん」
 
「冷たい奴め。友人がいがないと思わないか」
 
一人さびしく、深夜の学校で目が覚めるのは勘弁だ。
 
足の踏み場もないほど桜の花びらが中庭の地面に落ちている。
 
散る様は綺麗だが、散った後は無残だよな。
 
少し気が引けながら桜の花びらを踏みながら歩く。
 
「昼寝なんてどうでもいいが、さっさと彼女でも作りたい」
 
「いきなり話が飛んだな。松坂って彼女いなかったっけ?」
 
「……失恋した。つい1週間ほど前に春休み中にフラれたんだよ」
 
松坂はうなだれながら答えた。
 
「それはご愁傷様。また次の恋を頑張ってくれ」
 
確か、けっこう可愛い系の彼女だった記憶があるが……。
 
付き合い始めた頃はウザいくらいに自慢していたのに。
 
「色々と性格が合わなくてさ。お前、猫系タイプはやめておいた方が良いぞ」
 
「猫系タイプ?」
 
「そう。猫みたいな性格の女の子。こっちの都合なんておかまいなし。こちらに合わせる事もしない気分屋だったんだよ。可愛いから我慢してた所もあったが。いきなり向こうからフリやがって。こっちだってごめんだ。ああいうタイプはもうやだね」
 
「そういう女の子っているよな」
 
人の性格が合う合わないは仕方がない。
 
特に恋人ならば、相性の良し悪しが致命的とも言える。
 
なんて、彼女いない歴=人生の俺が想像で言ってみる。
 
「振り回されっぱなしの猫系女子より俺は犬系女子の方が良いぜ」
 
「犬系だとどう違うんだ?」
 
「いわゆる、犬系の女の子はな……あれ?すまん、ちょっと話を止めてもいいか」
 
松坂はふと自分のポケットを触り、何かを探し始める。
 
「どうした?忘れ物か?」
 
「教室に財布を忘れてきた。やばい、机の中だ」
 
「おいおい、やばいだろ。さっさと取ってこいよ」
 
「悪いな、ちょっと待っててくれ。すぐに取ってくるから」
 
焦った松坂が駆け足で再び校舎に戻るのを見届ける。
 
無事に財布が教室にある事を祈っておいてやろう。
 
「さて、待ってる間にお花見でもしますかね」
 
俺は桜でも眺めていようと目の前の大木を見上げた。
 
桜の花が咲いている時期は短い。
 
この綺麗な花も今週末には散ってしまう運命だろう。
 
中庭の中でもひと際大きい桜の木。
 
そこで俺は自分の目を疑う光景を目の当たりにする。
 
「……え?」
 
淡いピンク色の桜の花びらが舞う中で、人影を見た気がした。
 
もう一度、目を凝らして見てみるとそれは女の子だった。
 
「え?嘘だろう?」
 
なんと、桜の木の枝に登り、ちょこんと座る女の子がひとりいた。
 
女の子、なぜ、どうして、そこにいる?
 
ありえない光景に俺は思わずびくっとする。
 
女の子の横顔はとても可憐で、長い黒髪が風になびく。
 
「自分で木に登ったんだよな?」
 
そうじゃなければ、こんな場所にはいないわけで。
 
しかし、今時の女の子が気に登る状況と言うのがよく分からない。
 
「ん?」
 
女の子が俺に気付いて視線をこちらに向けた。
 
容姿のレベルが高くて可愛いらしい。
 
そこらのアイドルが顔負けの可愛らしい整った容姿。
 
すごく可愛い、それが初対面で抱いた印象だった。
 
彼女は桜の木の枝に腰掛けながら、俺に小さな声で言った。
 

「――そこの男の人、私を助けてくれない?」
 
まさかのヘルプミー宣言だった。
 
俺は女子から助けを求められて、さよならと去りゆく男ではない。
 
可愛い女の子に助けを求められれば助けるのが男である。
 
俺は桜の木の下に近付くと、彼女に尋ねる。
 
「まさか、自分で登っておりられなくなったとか?」
 
「……違うわ。これはいじめよ」
 
「い、いじめ問題?」
 
何だか一気にディープな問題になった。
 
どういう事情が背後にあって、こんな展開になったのか全く想像できないが。
 
「そう。私のお気に入りのハンカチをこの木の枝に引っ掛けたの。ひどい事をする。仕方なく登ってはみたけども……行きはよくても、帰りは怖い。下を見たら、もうダメね」
 
なんとか登れたのはいいが、下を見て怖くて動けなくなった、と。
 
それを世間では自分で降りられなくなったと言うのです。
 
「えっと、聞いてもいいか?それの犯人は?」
 
「……春のそよ風」
 
「それはただの風の悪戯だ!?」
 
イジメでも何でもない、ただのハプニングだ。
 
言われて気付くと、中庭の手洗い場には彼女のモノと思われる鞄が置かれていた。
 
あそこで手を洗って風にのってハンカチが飛んでしまい、あんな場所に引っ掛かった。
 
話の流れから言うと、そういうことだろう。
 
とはいえ、地面から2.5メートルの場所から飛び降りるのは女の子には勇気がいる。
 
「分かった。俺が受け止めてやるから飛んでくれ」
 
「……スカートの中をのぞかない?」
 
「覗かないっての。初対面でもそこは信用してくれ」
 
いつまでもあんな場所にいたら危ない。
 
バランスでも崩したら大けがをするのは避けてやりたい。
 
「ほら、ちゃんと受け止めてやるから」
 
「……やっぱり、怖いから無理」
 
腰が引ける彼女、何だかんだいいながらも怖いらしい。
 
その辺は普通の女の子らしい反応だ。
 
「目をつぶっておりればいい。なんとかする」
 
下を見るから余計に恐怖心が高まるのだ。
 
「俺を信じろ。初対面だが、女の子に怪我をさせる真似はしない」
 
「ホントに?」
 
「大丈夫だって。ほら、カウントダウンいくぞ。1、2」
 
「ま、待って。自分のタイミングで飛ぶから」
 
俺も自分の鞄を地面に置いて、受け止める準備をする。
 
小柄とはいえ、女の子を抱えるのは大変だ。
 
「1、2、3……」
 
彼女は小さく呟きながら、目をつぶりながらようやく木から飛び降りた。
 
「えいっ」
 
春の桜が舞う中で、小柄な身体が宙を舞う。
 
俺は腕を伸ばし、その身体を受け止める。
 
思ったよりも女の子の身体は軽くて、とても柔らかな感触だった。
 
俺の腕におさまる形で、彼女を抱きとめた。
 
「……ナイスキャッチ」
 
「怪我もなくて、何よりだ。あんなに高い所だと怖かっただろ?」
 
「うん、怖かった……もう無茶なことはしない」
 
ふと間近で目が合うと、あまりにも美少女なので見惚れてしまった。
 
可愛い女の子とこんなに近くで見つめ合う事など人生でなかったのでドキッとする。
 
ふわっと香るのは甘いイチゴの香り。
 
こういう匂いのする香水なんだろうか?
 
「ありがと……助かった」
 
「無事ならいいが。友人にでも助けを求めたらよかったのに」
 
「……携帯もあっち。高校に入って早々、大変な目にあったわ」
 
指をさす方向には彼女の鞄があった。
 
ていうか、この子、新入生だったんだ。
 
「私はもう帰るから。じゃぁね」
 
名残惜しいがお別れのようだ。
 
少女がその場を立ち去ったのとタイミングを同じくして、松坂が教室から戻ってくる。
 
「財布、見つかってよかった。何だ、岡部?口元がにやけてるぞ?」
 
「別に、なんでもないさ。ちょっとした風の悪戯だよ」
 
風が桜の花びらを舞いあがらせる。
 
この腕に抱きしめた感触と異性の香り。
 
まだ制服にかすかに残る彼女の匂いが気になっていた。
 
これが俺と猫系女子の彼女の初めての出会い――。

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  1. 2013/07/02(火) 19:06:05|
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